【安全管理】ヒューマンエラーの原因と対策 ~ミステイク・スリップ・ラプス~
私は、労働安全コンサルタントとして、産業界の労災防止を図る上で、リスクを低減させる「リスクアセスメント」の導入が一番効果ありと考えますが、全部の仕事に「リスクアセスメント」を適用させるとなると検討期間が掛かるため、なかなか浸透しないという実情があります。
今回は、身近でも発生しうる「ヒューマンエラー」(略して「HE」と呼ぶこともあります)について、その定義と分類、及び分類毎の対策を紹介します。
1.ヒューマンエラーの定義
ヒューマンエラーとは、人間が原因となって起こるミス、勘違い、失敗のことです。簡単に「人為的ミス」と言い換えることもできます。
そのエラーの結果は、TPO(時間・場所・状況)によっては、結果の重大性が異なってきます。
日常生活では、スマホを忘れたり、パソコンで入力ミスしたりと、大抵のことは、大事には至りません。
しかし、産業の場合においては、上記のようにはいきません。
レバーの操作ミスひとつで、飛行機が墜落した事例があるぐらいです。
一度、失敗すると重大事故に繋がりうる産業界では、適切な対策を立てることが重要となり、そのためには、まずヒューマンエラーの性質を知ることが大事です。
心理学者のジェームズ・リーズン(1990)は、ヒューマンエラーを「計画された一連の精神的または身体的活動が、意図した結果に至らなかったものであり、これらの失敗には、他の偶発的事象の介在が原因となるものを除く」と定義しています。
ヒューマンエラーとは、人間と機械やシステムとの関係の中で、機械側ではなく人間側のエラーをクローズアップしたものです。
2.ヒューマンエラーの分類
認知科学者のドナルド・ノーマン(1981)は、ヒューマンエラーとなる一連の行動を「計画(意図の形成)の段階」と「実行の段階」の2つに分け、計画段階の間違いをミステイク(mistake)、実行段階の間違いをスリップ(slip)と呼びました。ミステイクはルールに従って実行しても発生する、計画自体に原因があるエラーであり、スリップはボタンの押し間違いなど「うっかりミス」と呼ばれるもので、実施者の注意減少・混乱が原因とされます。
(1)ミステイク(意図した行動)
計画の誤り、錯覚や勘違い、思い込みの認識や判断の過ちがあって、結果が失敗であったなど、遂行に移る前の頭の中での情報処理に問題があったエラーです。
(2)スリップ(意図しない行動)
計画は立てたが、遂行段階で誤りがあり、行動が意図的に行かないエラーがあります。言い間違いや書き間違い、動作の欠落などとなって現れます。
(3)ラプス(意図しない行動)
記憶段階で起こる忘却現象であり、度忘れ、うっかり忘れ、順序や位置の記憶違いなどの不確実な記憶、目標の見失いなどによるエラーがあります。
例えば、工具を取りに行ったのに、呼び止められてそのまま戻ってしまったなどが、これに該当します。
(4)違反(意図した行動)
あらかじめ決められているルールを意図的に違反し、その結果として失敗するエラー。規則違反の行動、近道行動(リスクテイキング)、省略、手抜きなどがこれに当ります。
3.ヒューマンエラーの対策
(1)スリップ対策
a.指差呼称:注意を向ける工夫を!
b.機器類のデザイン:エラーを防ぐデザイン上の工夫を!
(a)フール・プルーフ(インターロック)
人間が誤操作を行っても、それを防止できるシステムで、機械が作動しない設計をいいます。(適用例は、洗濯機や脱水機の蓋は運転中に開かない。USBの挿入方向は正しい方向しか受け付けない)
(b)フェール・セーフ(機械設計原則)
故障が発生しても被害が最小限に留めるように、機械が壊れても安全装置が作動して安全側に作用するシステム設計をいいます。(適用例は、交通信号機で故障時には赤信号になる。石油ストーブの自動消火)
(2)ラプス対策:記憶は外におこう!
脳の記憶に頼り過ぎずに、外部からの気付きとなるように工夫しましょう。
(a) メモ
(b)チェックリスト
(c)いつも使うものは、まとめておく
(d)タイマー、アラーム
(e)呼び止められても、きりのよいところまで中断しない
(3)ミステイク・不安全行動への対策:教育、訓練で防ごう!
ミステイクと不安全行動(意図的・無意識を含む)は、未習熟や教育不足、訓練不足が原因であるため、やはり教育や訓練で補うしかありません。
安全意識を高め、正しく判断するための代表的な活動訓練は以下の2つが挙げられます。
a.危険予知活動(KYK)
現場や作業の状況の中に潜む危険要因を発見し、その問題点を解決して、危険に対する感受性や集中力、問題解決能力を高める活動をいいます。
私も若い頃から実施してきた馴染みのある安全活動です。
KY活動は、通常、一日の作業を開始する前に行われます。
当日の作業に対する危険を予知し、安全確保上のポイント・対策を作業員に周知させ、安全の徹底を図ることを目的としています。
b.リスクアセスメント
労働安全衛生法 第28条の2 に規定された「危険性または有害性等の調査」のことで、潜在する危険性等を調査・分析する手法です。
事故は未だ起こっていないけれども、このまま放置すれば事故を発生させてしまうかもしれない危険有害性に対し、対策を立てて重大事故を未然に防ぐ方法です。
c.KY活動とリスクアセスメントの違い
比較項目 |
KY活動 |
リスクアセスメント |
法令上 |
法令には記載なし |
安衛法第28条の2で「事業者は、・・・措置を講ずるように努めなければならない」と示されている |
活用開始時期 |
1973年、住友金属工業で社内プロジェクトチームを結成し誕生 ⇒古くからあり馴染みがある活動 |
2006 年の労働安全衛生法等の改正による ⇒比較的、新しい活動 |
手軽さ |
気軽に実施 |
事前準備が必要 |
実施時期 |
作業の直前 |
作業の計画段階 |
実施時間 |
短時間で実施が可能 |
長時間の検討を要す |
安全対策の対象 |
ヒューマンエラー対策や保護具の使用などの対策に限定される (リスク低減措置の優先順位:低い対策) |
機械等の本質的安全対策の実施や工学的安全対策の実施が可能となる (リスク低減措置の優先順位:高い対策) |
マンネリ感 |
ヒューマンエラー対策や保護具の使用に限定される⇒形骸化する |
作業毎に危険性の抽出やリスク分析内容が違う⇒形骸化しない |
安全意識向上 |
気持ちの引き締めに繋がる |
KYよりも安全対策の意識レベルが向上する |
4.まとめ
・ヒューマンエラーの分類には、意図しない行為としての「スリップ」、「ラプス」があり、意図した行為としての「ミステイク」、「違反」があります。
・ヒューマンエラーの分類毎に、それぞれの効果的な対策には、違いがあります。
・「KY活動」と「リスクアセスメント」は、それぞれの長短を理解したうえで、作業に応じで活用し、上手に取り入れていくことをお勧めします。
・以下に続編の関連記事『【安全管理】ヒヤリハットや労働災害事例を活用した事故防止対策 ~4Mと安全文化~』のリンクを貼りましたので、興味のある方は、そちらも参照してみて下さい。
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