【電気設備技術基準の解釈】絶縁耐電圧試験 ~高圧・特別高圧電路及び低圧機器の絶縁耐力試験~

電気主任技術者(第1種、2種、3種)

 

 

【電気設備技術基準の解釈】絶縁耐電圧試験 ~高圧・特別高圧電路及び低圧機器の絶縁耐力試験~

 

1.絶縁耐電圧試験(絶縁耐力試験)

 

電気設備や製品・部品は、通常使用される電圧に対して十分な絶縁耐力があるかどうか(絶縁破壊をしないかどうか)を確認するため法令により試験を行う必要があります。(電気設備の技術基準の解釈 第15・16条参照)

 

一般的には、「試験による対象物の損傷・劣化を防ぐために設計上の耐電圧よりは充分に低く、かつ通常の運転状態中にその回路に加わることが想定される異常電圧に相当する程度の電圧を規定の時間印加しても絶縁破壊を起こさない」ことで十分な絶縁耐力(性能)があると判断することが出来ます。

 

 

2.絶縁耐力試験と絶縁抵抗試験の違い

 

(1)絶縁耐力試験(耐電圧試験)

 

絶縁耐力試験は、耐電圧試験とも呼ばれます。電気製品(部品)の使用する電圧に対して十分な絶縁耐力があるかどうか(絶縁破壊をしないかどうか)を確認するための試験です。

 

具体的には、使用電圧に対して規定されたACもしくはDC電圧を印加し、絶縁破壊を起こすかどうかで絶縁不良を検出する試験です。これにより受入れ時などにかいて機器の絶縁の強度が規定通りあるかを確認できます。

 

 

(2)絶縁抵抗試験

 

絶縁抵抗試験は、JISにおいて各電気製品ごとに絶縁抵抗試験の内容及び保証すべき抵抗値が記載されています。絶縁抵抗試験も、電気製品や部品を取り扱う電圧に対して規定されたDC電圧を印加し抵抗値を測定します。

 

具体的には、使用電圧に対して規定されたDC電圧を印加し、抵抗値を測定することにより絶縁不良が無いかを値で確認します。

 

絶縁耐力試験を実施する際にも、その前後で絶縁抵抗試験を実施し、耐電圧試験前後で、電気機器や電路の絶縁抵抗値に異常がないことを確認します。

 

詳細については、以下の過去記事に纏めていますので参照下さい。

 

過去記事リンク

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【電気設備技術基準】電路の絶縁 ~電気回路の絶縁抵抗測定(メガ)の規定値と判定・対策~ 電気回路の絶縁が保たれていなと短絡電流や地絡電流の故障電流が流れて、機器の破損、火災事故、及び感電事故の危険性があります。 電気回路の絶縁性能は、絶縁材...

 

 

3.高圧~特別高圧器具等の電路の絶縁耐力の確認方法

 

規格の耐電圧試験による絶縁耐力を有していることを確認したものである場合において,常規対地電圧を電路と大地との間に連続して10分間加えて確認したときにこれに耐えること。機器によっては、日本電機工業規格(JEM)等で1分間と規定しているものもある。

 

 

4.高圧~特別高圧電路の耐電圧試験電圧値

 

使用電路電圧

交流試験電圧

直流試験電圧

公称電圧

最高使用電圧

最高使用電圧×倍率

試験電圧

最高使用電圧×倍率

試験電圧

3300V

3450V

×1.50

5175V

×3.00

10350V

6600V

6900V

10350V

20700V

11000V

11500V

 

×1.25

14375V

 

×2.50

28750V

22000V

23000V

28750V

57500V

33000V

34500V

43125V

86250V

66000V

69000V

×1.10

75900V

×2.20

151800V

77000V

80500V

88550V

177100V

 

 

5.交流絶縁耐電圧試験と直流絶縁耐電圧試験の違い

 

(1)交流耐電圧試験

 

交流絶縁耐電圧の試験電流は、被試験物の劣化による漏洩電流に加えて、対地静電容量への充電電流が流れ続けます。

 

対地静電容量はケーブルの長さ・太さや回転機等の規模に比例して増大し、健全状態であっても大きな電流が流れることとなる為に比較的大きな試験器材を必要とします。

 

図1.交流耐電圧試験回路図

 

(2)直流耐電圧試験

 

直流絶縁耐電圧試験の場合は、試験開始時に対地静電容量への充電電流が発生するものの、静電容量分への飽和(満充電)以降は、劣化に起因する抵抗成分漏れ電流のみが流れ続け、それを漏洩電流として捉える為、試験器として必要な電流(=電源)が少なく済むことから、大規模な現場であっても、コンパクトな試験器材での対応が可能となります。

 

尚、直流による一定電圧による試験である為、交流で行う場合の正負(±)波高値に相当する2倍の電圧で試験を行うこととなります。

 

図2.直流耐電圧試験回路図

 

6.絶縁耐電圧試験を実施するタイミングと留意点

 

電気所の新設工事、電気設備の新増設時、休止中の電気設備の運用再開時などに、耐電圧試験を実施し、電路の絶縁が十分であり、実際に使用した場合、絶縁破壊を起こすことがないことを確認する。

 

絶縁耐電圧試験は、最大使用電圧に更に倍率をかける試験であるため、常規電圧よりも過酷な電気的ストレスを印加する試験であるため、試験条件不備により何度も再試験を繰り返さないよう注意する。

 

 

7.絶縁耐力試験の工場試験と現地試験の関係(JESC E7001「電路の絶縁耐力の確認方法」:日本電気技術規格委員会)

 

(1)(参考)JESC E7001(1998)制定経緯

 

機器の絶縁性能については,電気設備の技術基準第5条に『①大地から絶縁しなければならない。②事故時に想定される異常電圧を考慮し,絶縁破壊による危険のおそれがないものでなければならない。』ことが規定されている。絶縁性能に関する信頼度の判定方法として現在一般に行われている方法に絶縁耐力試験があり,「電技解釈」にその判定のための要件が定められている。

現状,変圧器,電線路などの電路の有すべき絶縁性能については,JEC,JISにおいて製品の絶縁耐力が定められており,これに耐えたものは,「電技解釈」に定める絶縁耐力にも耐え技術基準に適合するものと判断できるはずであるが,①JEC,JISに定める耐電圧試験は法的強制力をもつものではない。②輸送や現場組立の良否が絶縁の強度に影響することもある。との理由から,現地において耐電圧試験が実施されている。

 

 

(2)JESC E7001(2021)改定理由

 

 しかしながら,変圧器,電線路などの電路については,

 

・法的強制力はないが,民間の自主基準としてJEC,JISに基づき,工場において技術基準を上回るレベルでの耐電圧試験を実施していること。

・絶縁に関する設計手法(製品のパッケージ化の進展による機器一体輸送と現地作業箇所の局限化,現場作業の容易さに配慮した設計)の確立,施工・品質管理技術の向上,絶縁材料の品質向上による設備性能低下要因の排除に伴い,送変電設備の事故率は減少の一途をたどっており,中でも現地施工不完全に起因する事故率は確実に減少していること。

 

により,絶縁性能は確実に確保されるようになってきている。

 

こうしたことから,「JEC,JISに基づき工場において耐電圧試験を実施したものは,技術基準における絶縁性能を満足しているものとし,輸送・現地組立後の最終確認として常規対地電圧を印加すること」で,これまで実施してきた現地耐電圧試験と同等である旨の「絶縁耐力の確認方法」の規格を制定した。

なお,この規格において「常規対地電圧」とは,通常の運転状態で主回路の電路と大地との間に加わる電圧をいう。

 

 

(3)JESC E7001(2021)改定内容

 

 本規格は,保持すべき絶縁性能の緩和を認めたものではなく,所定の絶縁性能を確認する1つの方法として,新増設工事の竣工検査時等において,工場でJEC,JISに基づき耐電圧試験を実施し確認した絶縁性能が,現地においても維持できていると考えられる場合は,常規対地電圧を10分間印加することでよいことを規定したものである。

常規対地電圧の印加時間は,送変電設備に所要電圧が安定して印加され,絶縁性能に影響がないことを確認できる時間として従来から実績のある10分間としている。

 

JEC,JISに基づき工場において耐電圧試験を実施したものは,技術基準における絶縁性能を満足しているものとし,現地据付状態における最終確認として常規対地電圧を一定時間印加する方法を,「電技解釈」に基づく現地耐電圧試験と同様に,所定の絶縁性能を確認する一つの方法として定めたものである。

 

 

8.低電圧電気製品の絶縁耐電圧試験の目的

 

全ての電気製品や部品は感電、火災等の事故からユーザーを保護する必要があり、それらの事故を防止するための試験として、絶縁耐力試験(耐電圧試験)がある。

 

9.低電圧電気製品の絶縁耐電圧試験の測定方法

 

電気製品や部品は基本的に導体(電気通す部分)と絶縁(電気の通過を妨げる)で構成されていますが、一般的な絶縁耐力試験の方法として、製品が取り扱う電圧(AC電源・DC電源)に対する規定電圧を規定時間印加する。このとき、絶縁破壊が起きなければ、十分な絶縁耐力を持つと判断されます。絶縁破壊とは絶縁物に電圧を印加したときに急激な電流の増加があるかをみており、電流が流れれば絶縁が破壊されたということになる。漏れ電流が異常なときは、耐電圧試験器をトリップさせて、電圧印加を止める。

 

 

10.低電圧電気製品の絶縁耐力試験(耐電圧試験)の試験電圧例

 

電気製品は多くの部品で構成されており、基本的には『導体(電気が流れる部分)』と『絶縁体(電気が流れない部品)』で構成されている。この絶縁体に絶縁不良があると、人が電気製品に触れたときに感電する可能性がある。また、絶縁不良の部分が発熱すれば火災を引き起こす可能性もある。

 

そのため、電気製品には耐電圧試験(絶縁耐力試験)を行う必要がある。試験を行い、各国が定める安全規格(電気用品安全法やIEC 60950-1、JISなど)を満たすことができれば、電気製品は絶縁耐力が十分であり、感電および火災を防止する上で必要条件を備えているということなる。

 

試験電圧は電気製品(部品)の規格によって定められています。

例えば電気用品安全法(電安法)では、電気機器の動作電圧により試験電圧が異なり、一般的には、以下の試験電圧値が使われている。

 

絶縁耐力試験(1分間試験 ※一般的)

定格電圧

試験電圧

150V 以下

 AC 1000V

150V 超え

 AC 1500V

 

 

耐電圧試験(絶縁耐力試験)は1分間電圧を印加するのが規定ですが、量産工程で1分間も電圧を印加すると、生産性に問題が生じる可能性がある。

 

そのため、実際の量産工程では「1分間の試験で規定される電圧値の1.2倍の電圧を1秒間印加する」ということが行われていることがある。

 

絶縁耐力試験(1秒試験 ※量産時)

定格電圧

試験電圧

150V 以下

 AC 1200V(1000V×1.2倍)

150V 超え

 AC 1800V(1500V×1.2倍)

 

例にある絶縁耐力試験は、数多くの製品を試験する場合は1分間の試験電圧の1.2倍の電圧で1秒間加えて試験に変えることが出来る。これも各電気製品ごとに規格されている。

これは、生産工程の短縮を目的に、1.2倍の電圧で1秒間を適用検討のうえ、規格化された。

 

 

11.まとめ(補足)

 

・耐電圧試験の試験電圧(印加電圧)は、同じ電圧階級でも、中性点の接地条件や機器・製品の種類により異なるため、それぞれの製品規格で確認する必要がある。

 

・耐電圧試験は、交流と直流がある。

 

 

・交流耐電圧試験は、静電容量分が大きい機器では、大きな充電電流を流し続けなければならず、試験機材が大がかりとなる。

 

・一方、直流耐電圧試験は、静電容量分が大きい機器でも、充電電流は満充電までのごく短時間の初期充電のみとなるため、試験機材はコンパクトなる。

 

・新増設工事の竣工検査において、これまで工場及び現地施工後共に、規定耐電圧試験を実施してきたが、合理化により、工場耐電圧試験を規格通り試験し良好なものは、現地施工後に常規耐電圧試験(10分間)をすることで、絶縁性能を確認できるようになった。

 

 

・低電圧電気製品においても、感電、火災防止の観点から製造時の耐電圧試験は、重要である。

 

・耐電圧の試験電圧は、製品の種類や使用電圧により、各製品規格毎の定めがある。

 

・製品の生産工程の短縮を目的として、1分間の試験電圧値の1.2倍を印加することで1秒間に短縮できる合理化できる製品規格がある。

 

以上

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